触れられないけど、いいですか?
それは、相手がかの有名な大企業の御曹司であり世間的にも少なからず影響がある人であるからという理由だ。私は普段から自分のことを何かと口外するタイプではないから、そうでなくても言わなかったとも思うけれど。


それを聞いた黄瀬さんと鈴山さんは納得したような顔をしていたけれど、唯一、翔君のことを知っているはずの霜月さんが「いやぁ、せっかくなんだし、そういうことはちゃんと話してほしいなあ」なんて言って、困らせてくる。

……ここでも私のことからかってるの?

なんて答えたらいいか分からずに口ごもんでいると……



「人に言えないような相手と結婚なんて、やめた方が良くない?」



霜月さんが、鼻で笑うような言い方でそんなことを言うものだから、私にしては珍しく即答で言い返してしまった。


「違います。私が結婚する相手の方は、凄く優しくて、思いやりがあって、いつでも私のことを大事にしてくれる、とても素敵な方です」


……と。言ってから、さすがに少ーしだけ後悔した。
後悔というか、恥ずかしくなった。言い返すにしても、別の言い方があったかもしれない。〝私のことを大事にしてくれる〟はあまりに恥ずかしい言葉だったかもしれない。
黄瀬さんと鈴山さんがぽかんとしているのが分かって、その気持ちはますます強くなる。


だけど、気まずい空気を変える一言をくれたのは、意外にも霜月さんだった。
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