触れられないけど、いいですか?
次の土曜日の昼下がり。私はとある場所に来ていた。


「こんにちは、さくらさん」


目の前の彼女に、私も「……こんにちは」と返す。


ここは、ホテルトーキョー・スリジエ。
目の前にいる人は……優香さん。

私はどうしても彼女と話がしたくて、『結婚式の打ち合わせで笹川さんと短時間でいいから話したいことがある』と受付でお願いし、ロビーに呼び出してもらった。

私がどんな用件で、何を言いたくてわざわざここまでやって来て呼び出したのか、優香さんは分かっていると思う。
それでいて、含んだ笑みを絶やさない余裕ぶりだ。


「……酷いじゃないですか。あちらのご家族に勝手に伝えるなんて」

土曜日ということもあり、ロビーはたくさんのお客さんが行き交っていて結構賑やかだ。私と優香さんの会話に注目している人は誰もいないけれど。


「酷い? 何が? そんなこと言うなんて、さくらさんの方が酷いんじゃないの?」

私と違って、責められている立場のはずの優香さんはやはり笑っている。


「私は、叔父様に事実を伝えただけ。あなた達の婚約を白紙に戻したのは、私ではなく叔父様の意思よ」

「でも、何も佳久さんに言うことないじゃないですかっ」

「男性恐怖症の件は黙ってろって? それ、さくらさんの方が酷くてズルいんじゃない?」
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