触れられないけど、いいですか?
けっ……こん?
霜月さんと結婚する気はないかって聞かれたの?

突然のことに訳が分からず言葉に詰まっていると、霜月さんのお父さんが
「いや、ごめん! さすがに単刀直入過ぎたね!」
と笑いながら言って、懐から名刺を取り出し、私に差し出してくれた。


その名刺には【霜月グループ 会長】の肩書きが書かれていた。


「霜月グループって……まさか、あの……?」

私の質問に、正面の二人はにこりと笑う。


霜月グループとは、日野川グループに比べたら規模は小さいものの、それでも国内ではとても有名な企業グループだ。


「ど、どうして? 霜月グループの御子息なら、何でうちのオフィスで働いてるんですか?」

「ははっ、さくちゃんだってそうじゃん」

「私は、父の意向で社会勉強も兼ねて……」

「息子も同じです。しばらくは他社で様々な経験を積ませた後に、我が社の業務に取り組んでもらおうと思ってまして」


霜月さんと彼のお父さんにそう言われるけれど、私は「はぁ……」と返すことしか出来ない。
霜月さんが実は大企業の御曹司だったということは、驚きはするけれど納得するしかない。
でも、いきなり結婚してほしいと言ってくる理由にはならない。


すると、霜月さんのお父さんが再び口を開く。


「実は、息子にも近々結婚を考えさせておりまして、息子に恋人がいないようでしたらお見合いをと考えていたんです。
しかし、どうやら息子はさくらさんのことが大変気に入っているようでして」

「え……」

思わず霜月さんの顔を見るけれど、彼はいつもと変わらない様子でヘラッと笑うのみ。

彼からは確かに先日告白されたけれど、まさか突然結婚を申し込まれる程とは思っていなかったし、それに何より……


「あ、あのっ。お、お気持ちは嬉しいのですが、私には既に婚約者がいまして……」


翔君との結婚は、正直今は暗雲が立ち込めている。それでも、完全に破談になった訳ではない。翔君は〝さくらは何も心配しないで〟っていうメッセージを送ってくれた。


……というか、私に婚約者がいることを霜月さんは知っているはずなのに、どうしてお父さんまで連れてきてこんな話をするの?


すると霜月さんのお父さんが。


「それは知っています。さくらさんの婚約者が、日野川グループの御子息だということもね」

「え?」
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