触れられないけど、いいですか?
「さて、本題ですが」と、霜月さんのお父さんが話し出す。


「こちらがこんなこと申すのも恐縮ではありますが、悪い話ではないと思うんです。霜月グループも、日野川グループ程ではないにしても国内で様々な関連会社を持ち、そのどれもが年々業務を拡大しております。さくらさんを霜月家にいただいた暁には、朝宮食品とも連携を取らせていただきたいと思っております。両家にとって、とてもメリットがあるかと」

「ま、待ってください! 私、まだ正式に日野川家との婚約が破談になった訳じゃ……!」

「しかし、日野川家からは婚約破棄の申し立てが既にあったと聞いてます」

「そ、それは……でも……」

「さくらさんは男性恐怖症、なんですよね? 祥久さんが戸惑う気持ちも分かります。ああ、気を悪くしないでください。さくらさんに辛い思いはさせたくないという祥久さんの配慮も含まれているかもしれませんし。
しかし、さくらさんは優斗と話したり触れたりするのは平気だそうじゃないですか。それならば、父親である私はさくらさんが男性恐怖症でも構いませんよ。差し支えがありそうな部分においては、私からもサポートしましょう」

「な……」

「あまり長居しても失礼ですし、本日はこの辺で失礼致します。良いお返事をお待ちしております」

そう言って、目の前の二人はソファから立ち上がる。
反射的に、私と父も腰をあげ、玄関まで二人を見送る。


玄関先で父親同士が会話している間に、霜月さんが私の隣へ来て、言った。


「本気だって、言っただろ?」
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