触れられないけど、いいですか?
「ああ、良かった。ちゃんと帰ってきて」
などと冗談めかして明るくそう言ったのは母だ。
リビングのソファにテーブルを挟んで正面に座っている。そしてその隣には父がいる。
父は、怒っている訳ではなさそうだけれど、少しだけ難しそうな顔をしている。
「あの、お義父さん。まだ婚約段階ですのに、さくらさんを許可もなく外泊させてしまいまして申し訳ありませんでした」
未成年ならともかく、普通ならば、婚約段階とか婚約前とか関係なく外泊するのに親の許可を都度もらったりはしないのだろうけれど、自分でいうのもなんだけれど箱入り娘として育ってきた私の父に対しては、とりあえずこの様に謝っておくのが正解だろう、と翔君の隣にいながら思った。
「ま、まあそれは仕方ないよ。あんな状況だったからね」
確実に動揺しているものの、怒らずに理解してくれる父の優しさを改めて感じる。
「それよりも、今日こうして来てくれたのは、二人で決めたことを私達に話そうとしてくれたからでしょう?」
そう話すのは母だ。
私と翔君はお互いに一度目を合わせ、そして再び両親の方を向き、
「はい」
と答える。