触れられないけど、いいですか?
「翔さん」
背が高いから、見付けやすかった。
待ち合わせ場所にてオフィススーツ姿の翔さんを発見した私は、名前を呼びながら彼に駆け寄る。
「さくらさん。こんばんは」
「すみません、お待たせしてしまって」
「いえ、僕も今来たところです」
こうして二人きりで会っても、翔さんの笑顔や物腰の柔らかさは昨日と何も変わらない。
「えと、今日はすみません。昨日の今日で呼び出したりして……」
「とんでもない。今日もお会い出来て嬉しいです。立ち話もなんですし、早速行きましょうか」
はい、と答え、彼と一緒にたくさんのオフィスビルが立ち並ぶビル街を歩いていく。
十九時台のビル街は、人通りも車通りも多くて賑やか。
だけど今は、この賑やかさに逆に落ち着かされる。
「さくらさんは、この辺りのオフィスにお勤めなんですよね?」
薄暗い中、ビルのライトに照らされた翔さんの顔は、雰囲気があってとても綺麗だ。
「はい。私自身は朝宮食品で働くつもりでいたんですが、他社で働くことも良い人生経験になるからと父に言われ、現在は飲料品メーカーで販売促進の仕事をしています。翔さんは、日野川グループで働いていらっしゃるんですよね?」
「ええ。本社ビルで、主に新規商品開発部門のマーケティングに携わっています」
「大変じゃないですか?」
「いえ、やりがいがあってとても楽しいですよ」
はっきりとそう言い切る翔さんは、とても頼もしく男らしい人だなと感じた。
本当に、欠点の無い魅力的な人……。