触れられないけど、いいですか?
なんて考えつつ、ドキドキと胸を高鳴らせながら彼の顔をチラ、と見上げる。


……と。彼は何故か私から目を逸らし、顔も完全に横を向いて、無表情。


……これから結婚式を控えている人間の表情には見えないような。ドキドキしているのは私だけ? この後の結婚式が楽しみなのもまさか私だけ?


「……翔君?」

恐る恐る名前を呼ぶと、彼はハッとして私の顔を見る。


「ごめん、何?」

「えっと、何というか……」

なんだか上の空だった? なんて聞かずに思わず口ごもっていると……。


「あー、やっぱ無理!」

「えっ⁉︎」

やっぱ無理、って何が⁉︎ ま、まさか私との結婚が⁉︎ 一体何でーー⁉︎


……と思い、パニックになりかけたけれど。


「さくらが、あまりに可愛過ぎて、直視が無理」

「へっ?」

「いや、可愛いと言うより綺麗、かな? 凄く眩しい」


眩しい、なんて。

それは私が翔君に対していつも思っていたことだ。

太陽みたいに輝いていて、温かくて。でも手を伸ばしても届かない、そんな存在だと感じていた。


……でも、彼も私のことを眩しいと思ってくれて。
まだ、胸を張って彼の隣に並ぶのは躊躇ってしまうこともあるけれど。

それでも、今日くらいは。


それに、手を伸ばせばいつだってすぐそこに彼がいてくれる。届かない存在なんかじゃ、ない。


だって、これから夫婦になっていくのだから。


「男性恐怖症は、結局まだ治っていないけどね……」

思わず、ポツリと呟く。

翔君も色々と協力してくれたけれど、結局私は今も、男性に触れるのは怖い。お義父様と握手をすることは出来るようになったけれど、電車には未だに乗れない。
< 184 / 206 >

この作品をシェア

pagetop