触れられないけど、いいですか?
「行かない」

「逃げるの?」

「逃げてねぇ。あれだ、ご祝儀が勿体ないだけだ」

……普段だったらそんな小さいこと絶対に言わないくせに。やっぱり、幸せそうな朝宮さんを見るのが辛いだけなんでしょ。

……でも、それが普通なのかも。
フラれた相手の結婚式なんて……行きたくないなら行かなければいいのかもしれない。
優斗と私は性格は似ているけれど、優斗の方がやや素直だ。
私はいつだって意地を張って、見栄を張って、弱いところなんて誰にも見せたくなくて。
……そういう性格を全部直したいとは思わない。だけど、もう少しだけ素直になりたい。
自分の悪いところを見つめ直すなんて本当はしたくないけれど、優斗と一緒にいると多少はそういう風に思える。兄妹みたいに育った、家族同然の存在だから心を許せるのかもしれない。


「……ありがとね」

だから、恥ずかしいのを堪えて素直にお礼を伝えてみた。けれど。


「何が?」

「っ、何でもないわよ!」

全く伝わらずに真顔で聞き返され、つい強い口調で言い返してしまった。今のは、唐突にありがとうだなんて伝えた私に非がある気がするけれど。
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