触れられないけど、いいですか?
「え……?」

「ふとした時に浮かない表情をすることが多いので、そうなのかなって。あ、すみません、責めている訳ではないんです。僕の母もそうだったように、親に決められた相手と突然結婚だなんて、女性なら躊躇って当然です」

そう話す翔さんは、切なげな表情のまま更に言葉を続ける。

「さくらさんのそんな気持ちを少しでも軽減させられるよう、僕も努力して良き伴侶になっていくつもりです。

でも……さくらさんがどうしても僕のことが嫌だと言うなら、僕に気を遣うことなく結婚の話は白紙にしてください」

彼のその言葉を、私は慌てて否定する。


「違います! 白紙だなんて、私はそんなつもりありません!」


確かに、この結婚は私の意思とは関係なく父が決めたこと。朝宮食品のことを重視した政略結婚であることも事実。

それでも結婚するって自分で決めた。それに、翔さんは私には勿体無い位のとても素敵な方で、彼を嫌がるなんてとんでもない。


浮かない表情をしてしまったのは、彼のせいじゃない……。



すると、


「じゃあ、今日は手を繋いでくれますか?」


そう言って、ゆっくりと右手を私に向かって伸ばす彼。



この手を、取らなければ。
それに、この手を取ればきっと彼も安心してくれる。


昨日と同じ様に、彼の右手に向けて自分の右手を伸ばす。


だけど……



「……ごめんなさいっ」

触れ合うよりも先に、私は手を引っ込めてしまった。
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