触れられないけど、いいですか?
注文したアイスコーヒーが届き、一口含んだのとほぼ同時に、カフェにさっきの彼が入ってきた。


「待たせてごめんな〜。あ、お姉さん、俺もアイスコーヒー一つ」

近くにいた店員さんに飲み物を注文してから、テーブル越しの私の正面にドカッと豪快に座る彼。

顔と声は中性的な彼だけれど、こうして間近で見ると、話し方や仕草は男らしい。

そんなことを考えていると。


「この間は、あの後ちゃんと無事に家まで着けた?」


と、彼から聞かれる。



「やっぱり、あの時助けてくれた方なんですね」

目の前の彼は、やっぱり三つ編みの彼女だったのだ。
雰囲気は全く違うけれど、顔はそっくりだから、驚くよりもしっくりときた。


あの時はありがとうございました、と頭を下げてお礼を言うと、彼は「そんな大したことはしてねーよ」と豪快に笑った。


「ただ、一つ言っておく。俺は決して、女装趣味とかじゃないから」

「違うんですか?」

「違うって。まあ、そう思われても仕方ないかもしれないけど!」

そう言って、彼は額に右手を充てながらハーと深いため息を吐く。

「ヘアメイクの仕事してる従兄妹がいてさ。俺の顔で練習させろとか言われたんだよ。俺、女顔だから。
んで、完成したヘアメイクが上手く出来たから、絶対に男だってバレないからちょっと電車乗って出掛けてこいって言われて」

「そうだったんですか。あなたは、私が同じ会社の人間だってこと、最初から気付いてたんですか?」
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