触れられないけど、いいですか?
その感触に、身体が思わずビクッと反応してしまったけれど、


「気分悪くなってる?」

「いえ、大丈夫そうです……」

無理している訳ではなく、本当に。

翔さんの手は大きくて、私の左手をすっぽりと包み込む。
女性の手と違って、骨ばっているなとも思った。

男性と手を繋ぐって、こういう感じなんだ……。

とは言え、翔さん以外の男性と繋ぎたいとは思わない。
霜月さんとだって、繋ぐことは出来るかもしれないけれど〝繋ぎたい〟とは絶対に思わない。

だって、翔さんと手を繋いでいたら、心臓が凄くうるさくなってきた。
こんな風に胸がドキドキする相手は、きっと翔さんだけ。


もしかして、これが恋……?



「そう言えば」

翔さんがそう口にしながら、ほんの少しだけ、私の左手を握るその手に力を込めた。


「翔さん?」

「指輪」

「指輪?」

翔さんを見上げながら首を傾げると、彼も私を見つめながら、フッと笑った。

……もう、猫を被っていない〝素〟の彼のはずなのに、初めて会った時のようなーーいや、それ以上の優しい笑顔……。


「さっきの男が言ってたね。〝指輪してないからフリーかと思った〟って」

「え? あ、うん」

さっきの男って、霜月さんのことだよね。そう言えば、確かにそんなことを言われたっけ、と思い返していると。


「じゃあ、早く買わないとね。婚約指輪」
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