触れられないけど、いいですか?
約束の日曜日。

私は『ホテルトーキョー・スリジエ』にやって来ていた。


ホテルトーキョー・スリジエは、都内にある超高層ビルに入居しているホテルで、日本人でその名を知らない人は殆どいないだろう。

高さ二百五十メートルのビルの、高階層を客室で占め、婚礼施設やレストラン、スパなど様々な高級施設があることで有名なホテル。

私も何度か、父に連れられて会社関係のパーティーで足を運んだことはあるけれど、自分がここで結婚式をするのだと考えると、なんだか緊張してくる。今日はまだ、結婚式の初回打ち合わせを軽くするだけだというのに。


ビル内へ入っていくと、翔くんの顔を見た受付の女性がさっと立ち上がり、恭しくお辞儀をしてくれる。

「日野川様、お待ちしておりました。オーナーもすぐ参りますので、少々お待ちくいただけますでしょうか」

「ええ。こちらこそ約束の時間より少し早く着いてしまって、すみません」


受付の女性に案内され、ロビーのソファーに翔君と二人で腰をおろして待つことに。


いきなりオーナーとの対面かぁ……。
今まで、父に連れられてこのホテルに足を運んだことはあっても、オーナーとお会いしたことまではなかったから、緊張する……。

そのオーナーと日野川家が、昔から交流があるという話だったよね。一体、どんな人なんだろう。


すると数分後。


「すまない。お待たせしてしまったね」

そう言いながら現れた、黒のスーツ姿のその男性は、背が高くてスタイルが良く、優しそうでとても整った顔立ちをしている。

この人がこのホテルのオーナーなんだ……。
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