触れられないけど、いいですか？
優香さんが発した一言の意味が理解出来なかった私は、どう返事したら良いか分からず言葉に詰まる。

すると優香さんが話を続ける。


「父親同士が知り合いっていう理由だけで成立した政略結婚なのよね？ そんなことだけで、何の努力も無く翔のお嫁さんになれるなんて羨ましい。私の家だって、父も母も日野川家のご家族と仲は良いのに、私は選ばれなかった」


言葉の途中で、優香さんの表情から笑顔は完全に消えた。今は分かりやすく、怒りに満ちた顔をしている。


優香さんは、翔君のことが好きなんだ……。



優香さんは更に言葉を続ける。


「日野川グループの御曹司と結婚する程だもの、よっぽどの大企業の娘さんなんでしょうね？ どちらの会社かお伺いしても？」

「……私の父は、朝宮食品株式会社の社長です」

「……は？」

優香さんの丸い目が見開いて、彼女が明らかに驚いているのが目に見えて分かった。


そして。


「……信じられない」

彼女は大きな溜め息を吐いた。


「朝宮食品？ 日野川グループとなんて、全然釣り合ってないじゃない。朝宮食品の娘と結婚するくらいなら私と結婚した方が日野川家にもメリットは大きい筈なのに、何であなたと結婚するのよ！」


……散々な言われようだ。
言われていることは確かにその通りだと思う。それについては私だって最初から疑問だった。


だけど、朝宮食品のことを馬鹿にされているようで、悔しいと感じる。
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