触れられないけど、いいですか?
「……やっぱり納得出来ない」

少しの無言の後、優香さんは私を睨み付けながらそう言い放った。


よく意味が分からずに思わずぽかんとしてしまうけれど、そんな私に優香さんは、駄目押しでもう一言付け加える。

「あなたと翔の結婚は、納得出来ない。翔が幸せになるなら大人しく身を引くことも考えてはいたけど、あなたより私の方が翔に釣り合ってる。絶対に。あなたと結婚したって翔には何の得もない」


……はっきりとそう言い切られてしまったけれど、そんなことを言われても、はいそうですねなんて答えて身を引くことなんて出来ない。そんな気ない。


私だって、翔君のことが好きなんだから。


「……私は、します。翔さんと結婚」


いまいちはっきりとした口調で言い返すことは出来なかったけれど……ちゃんと自分の気持ちを伝えた。


きっと、優香さんと翔君の間には私の知り得ない思い出がたくさんあるだろう。ついさっきまで、そのことに不安や嫉妬をたくさん感じていた。


でも、今は。

朝宮食品のことを馬鹿にするような言い方をしてきたり、肝心の翔君の気持ちをまるで無視した言い方をしてきたりするこの人に気圧されたくないって思う。

この人は、きっと凄く翔君のことが好きなのだと思う。
だけど、私だって翔君のことが凄く好きだから。
翔君と出会った月日の長さでは負けていても、彼を想う気持ちの強さでは負けない。
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