触れられないけど、いいですか?

「ふぅ……涼しい」

ショッピングモールに入ったところで、思わずそんなひとり言が飛び出た。

季節は初夏。

本当は、頑張って電車に乗ってここまで来ようと思っていたのだけれど……また倒れちゃうかなと直前で不安になってしまった。

前回は霜月さんが助けてくれたけれど、今日も誰かが都合良く手を貸してくれるとは限らない。

勿論、いつかは克服しなければならない問題だけれど、今はまだ焦らなくても良いかなと思い、電車はやめて徒歩にした。

徒歩と言っても一駅分だからそんなに遠い訳ではなかったけれど、思ったより気温が高く、少し暑かった。


さて、まずはどこから見て回ろうかな。

翔君との新居に引っ越したら生活用品が色々と必要になるけれど……それは翔君が一緒にいる時に買った方がいいかもしれない。

ということで、今日は自分の服とか化粧品等を買うことにして、とりあえずエスカレーターに向かうことにした。

その時。


「さくらさん?」


……聞き覚えのある声に呼ばれ、思わず身体が固まる。

そのままぎこちなく振り返ると……そこにいたのは予想通りーー優香さんだった。


「こ、こんにちは」

一応挨拶を返すも……顔が引きつるのは誤魔化せなかった……。
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