触れられないけど、いいですか?
「そんな露骨に嫌そうな顔しなくてもいいじゃない」

そう言いながら、優香さんは私の元へと歩いてくる。

嫌な顔をしてしまうのは誰のせいよ、と内心思うけれど、そんな優香さんは私に比べて余裕そうな表情ーー余裕そうに、意地悪な笑みを、浮かべている。


……嫌だな、と正直に思う。
翔君がここに一緒にいればまだしも、優香さんと二人きりというのは……気まずいし、また何を言われるか分からなくて、怖い。



「……そんなに怯えなくても、何もしないわよ」

「え?」

優香さんからの意外な言葉に、私は俯いていた顔を上げた。


……すると彼女は、そんな私を見てクスッと笑って。



「まだ、ね」

「え……?」

「どんな手段で邪魔してやるかは、今じっくり考えてるところだから」


その言葉に、ゾクッと背筋が凍った。

だけど、怯む訳にはいかない。


「……あなたが認めてくれなくたって、私は翔さんと結婚します。邪魔される筋合いだってありません……っ」


優香さんの目を見て、はっきり言ったつもりだ。少し声が震えてしまったけれど、私の気持ちはちゃんと伝えられた筈だ。


だけど、優香さんはそれに戸惑わされるような人ではなく。


「なに調子に乗ってるの? 所詮、親が決めた政略結婚でしょ」


鋭い視線で私を睨み付けながらそう言ってくるけれど、私だってそれに負けていられないと
「きっかけはそうだったかもしれないけれど、今はお互いの意思で結婚したいと思っています」
と言い返す。

けれど……


「それが調子に乗ってるって言ってるのよ!」


今までは常に冷静だった彼女が突然、怒りの感情を全面的に表しながら叫ぶようにしてそう言った。

幸い、辺りの人達は私達には特に注目はしていないようだけれど、私の身体はビクリと震える。


「ちょ、調子に乗ってなんか……」

「乗ってるわよ! あなたなんて、つい最近翔と知り合ったばかりのくせに! 私は、翔とは小学校も中学校も高校だって一緒だった! ずっと一緒だったのよ!」
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