触れられないけど、いいですか?
言葉に出来たのはそれだけだった。

涙が出てきそうで、これ以上何か話したら泣いてしまいそうだったから。
自分の気持ちを全て伝えたいって思うのに、本当に上手く出来ない……。


少しの間の後、翔君が口を開いた。


「そう思う詳しい事情は、この後さくらの口からちゃんと聞きたいって思うけど……


結婚を〝やめたい〟じゃなくて、〝やめた方がいいのか〟って言う話なら……


俺は、さくらを手放すつもりなんて微塵もないよ」



ーー力強い声、言葉、そして瞳。


泣きたくなかったのに、彼の存在自体が私の凍り掛けていた心を溶かしてくれるようで、涙が頬を伝った。


「泣いていいよ。泣きながら、ゆっくりで構わない。さくらの気持ち、全部話して」

「うん、うん……っ」

「話してくれなきゃ分からないこともあるからね」

「うん……っ!」

「さくらのこと、全部知りたいって思うから」


彼の言葉に安心しながら、私は全てを話した。

優香さんから〝結婚を認めない〟と言われたこと、男性恐怖症のことを彼女に知られたこと、そしてーー


『男性に触れることも出来ないあなたが、日野川グループの御曹司の妻なんて務まらないわよ。絶対無理』


そう言われたことを……。
< 96 / 206 >

この作品をシェア

pagetop