人生18歳8月31日
第一章 七月の終わり

「あー、明日から夏休みかあ」
「だなー」
「うちの学校8月1日からとかまじふざけてるよな」
四階の一番端にある三年一組の教室からは、いつも通りたわいない会話が聞こえてくる。
「てかあいつ遅くね?」
「また寝坊だろ。学級委員のくせにな」と、同じクラスの山部が言ったのと同時にチャイムが鳴った。
「やべ。杏ちゃんくんぞ!」杏ちゃん。このクラスの担任の榊原杏先生のことだ。先生は容姿端麗でみんなから杏ちゃんと呼ばれており、愛されている。その杏ちゃんと一緒に教室へ入った。
「大地おせーぞ!てかなんで杏ちゃんと??」親友の太陽が大きな声で言った。
「少し私と話し合いをしてたので一緒にきただけです」杏ちゃんがニコッと笑いながら返した。
「話し合い?なんの?」太陽を含めその他大勢のクラスメートが興味を持っている。
「えーと、それは……」ここで初めて喋る俺の声は少し小さかった。
「しっかり話さないと聞こえないよ?」肩を叩きながら杏ちゃんも小さな声で呟いた。
「あ、そーですね。えっと、本当に突然で悪いんだけど俺、この夏の終わりに死ぬんだ」さっきとは違い、この32人もいる教室全体に聞こえる声だったと思う。なのに誰も返答してこなかった。
少し間が空いて最初に声を発したのは、彼女の凛だった。
「え、冗談やめてよ」凛の美しく透き通った声が静寂と化した教室に響く。
「この顔が冗談に見えるか?俺が冗談言ったことあるか?」険しい表情だったかも知れない。さらに教室は静かになった。物音一つない、まるで自分しかいないみたいに。
「うそ……」
「病気とかかな……」
「でも元気そうだよな?」
「じゃあなんで……」
さっきまでの沈黙が嘘だったみたいにみんなの声を出す。
「ずっと言おうって思ってた。でも言えなかった。言いたくなかった。だけどさ、言わなきゃいけないって思った。俺の家系って長男が病気に、いや呪いにかかるんだ。それもなんでなのか、誰が何のためになのか全くわからない。確かなことは、鈴谷家の長男は十八歳の八月三十一日に死ぬってことだけ。そして、死ぬよりも先に子供を作らなければいけないルールがあるんだ」
「本当なのか?」太陽がいつもとうって違って小さな声で問う。
「本当だ。現に俺には父親も祖父も曽祖父もいない。もちろん亡くなったのはみんな同じ日だ」
「うそだろ……」
「だからよ、この夏俺と一緒にいっぱい思い出作って欲しい。それが言いたくてホームルームの時間を貰ってこの話をした」頭を下げながら言った。
また、沈黙が続いた。いったい何分経ったのだろうか。
「う、うん!作ろう!みんなでいっぱい!!」凛がいつもは発さない大きな声で言った。
「そうだな!俺も手伝う!」
「うちも!」
「俺も俺もー!」今日一番騒がしく明るい教室になった。
「ありがとう。本当にありがとう。」笑顔でそして少し涙を堪えながらそう言った。
明日から夏休み。余命三十一日。いったい俺は、俺達はどんなことをして残りの日々を過ごしていくのだろうか。
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