昭和生まれのサンタクロース
会話も途切れようとしたとき、ようやく順番がやってきてエレベーター内へ案内された。

アテンドさんの東京タワーの歴史を聞いてるほんの一呼吸のうちに展望フロアへ到達。

エレベーターから降りると、周りの半分くらいの速度だがしっかりと、二人一緒に夜景の見える窓際へ。

「綺麗ですね。」

「そうだな、今の東京は明るいな。」

時間が刻まれたガラス越しに眺める景色は今か、過去か。

二人の時間が静かに優しく過ぎてゆく。

と、そんな彼らに突然割り込んできたのは現代社会の技術、プロジェクションマッピング。

「うわぁ。凄いですね。」

「なんだ。」

驚きと、どこを見るのが正解か分からず二人揃って首を360度回している。

少しして、窓際と床に映し出されることを理解した二人は壁の方へ移動した。

「今って進んでいますね。」

「昔来たときはこんなの無かったもんな。」

と、感慨深そうに映像美を楽しむ二人。

最後に東京タワー60周年のマークが映し出された。

だが、これで終わりかと思ったら2週目に突入。

「写真撮らなくていいのか?」

映像から目を外し、おばあさんの手元のスマホに移した。

おばあさんは横からの声に顔を向けること無く、そのままの状態で答える。

「いいのよ。今この瞬間はあなたと一緒に見ていたいの。」

一時だけ敬語が失われ、以前の話し方に戻ったおばあさん。

「そうか。」

それだけを返して、共に今を共有する。何物にも邪魔されずに。
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