昭和生まれのサンタクロース
途中、夕飯を食べてたせいで東京タワー下へ到着したときには19時も半ば。

東京タワー入口を目指して歩を進めると、イルミネーションに飾られ豪華絢爛なもみの木が視界に入った。

「大きいわね!」

「ああ。」

2人は目線を上に少しの間停止している。

すると、近くにいたカップルの話し声が飛び込んできた。

「この木、東京タワー開業60周年に合わせて60歳なんだってさ。」

「えー、すごーい!私たちの三倍!」

その会話で何かに気づいたのか、ふふっと笑みが零れたおばあさん。

だが、その何かを問いかけによって再確認するような無粋なことはしない。

「寒いですし中入りましょうか。」

「そうだな。」

二人は一定の距離を保ちながら入口の自動ドアから建物の中へ。

クリスマスということもあり混雑率150%。

おじいさんが先立って列へ加わり、ポケットに入れたチケットを確認する。

「おじいさん、こっち向いてください。」

列待ちの間、おばあさんが慣れないスマホをおじいさんに向ける。

「写真か?いいよ俺のは。」

と、照れくさそうに顔を背けるが、

「せっかくですから。」

今日は積極的なおばあさん。

「いいって。」

それでもおじいさんは頑固です。

そんなやり取りが聞こえたのか、近くの中年男性から優しい提案が。

「もしよろしければお二人、撮りましょうか?」

「そうね、悪いけどお願いしていいかしら?」

「もちろんです!」

おばあさんが差し出したスマホを喜んで受け取った男。

こうなってしまってはさすがのおじいさんも折れるしかない。

「撮りまーす。はい、チーズ。」

掛け声と同時に乾いたシャッター音。

「ありがとねー。」

「いえいえ、とんでもないです。」

男からスマホを返してもらうとおじいさんと一緒に写真を確認した。

「よく撮れてるわ、本当にありがとう。」

「ありがとう。」

お礼をいうおばあさんに続いておじいさんも軽く頭を下げた。

「いえいえ、クリスマス楽しんでください。」

とだけ言い残して、展望台エレベーターの列には加わらずどこかへ歩き去った。

「優しい方で良かったですね。」

ぎこちない手つきでスマホを操作しながらおじいさんへ向き直った。

「写真ならさっきのもみの木で撮ればよかったのに。」

まだ写真を撮ったことに若干の不満がある様子だ。

「見るのに夢中で、すっかり忘れてました。」

スマホの画面から目を離すことなく自嘲気味に微笑んだ。
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