昭和生まれのサンタクロース
「そろそろ下りましょうか。」

「そうだな。」

と、十分に堪能させてもらったフロアを後に階段で一つ下の展望デッキへ。

「ここ座ろうか。」

おじいさんの言う"ここ"とは、ピンク色に光るハートのベンチ。

その前にあるのはLoveウォールという有名なフォトスポット。

「いい歳して恥ずかしいじゃないですか。」

「今日くらいいいじゃないか。」

やんわりと断りを入れたが、おじいさんに押し負け腰を下ろす。

「東京タワーに登ったのはあれ以来か。」

「そうですね。」

二人はきっと、今だけタイムマシンに乗って時空を超えているのだろう。

「あの時の約束、覚えてるか?」

「もちろんです。」

約束、、、
《当時は高価で手が出なかった指輪。平成が終わる頃にはお金も貯まってるだろうからその時プレゼントする。それまで待ってほしい。》

「ずいぶん待たせたな。」

「いいえ、あなたとの時間なので一瞬でしたよ。」

60年も連れ添った夫婦、お互いが理解し合っている。

差し出された指輪ケースを包み込むように受け取ったおばあさん。

「開けてもいいですか?」

「ああ。」

開かれたケースの核には、予想通り最高の幸せが詰まっていた。

「付けていただけますか?」

すでに枯れたと思っていた涙が一筋頬を伝う。

「自分で付けられるだろ。」

と、悪態をつきつつもゆっくりと指にはめてあげた。

それは元々一体であったかのようにおばあさんの薬指と一緒になった。

「ありがとうございます。」

深紅のルビーの指輪。

あの日、一目惚れしたが高価すぎて手が出せなかった。

二人が一緒になる証としてつける結婚指輪じゃない。

夫から妻へ、幸せにしますという誓いを込めた婚約指輪。

結婚60周年に、昭和生まれのちょっと不器用なサンタさんからの贈り物。
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