僕と彼女の時間

 そして三年の後期も終わり、僕は四年生になっていた。

 結里が居なくなって一年近く。彼女の消息は未だに分からないまま。

 六月が来て僕は高校の教員採用試験を受けようとしていた。一次試験を通ったら二次試験が待っている。

 その大事な一次試験の会場へ向かう途中に携帯が鳴った。
 同じ大学のケンイチからだった。

「どうした? これから試験なんだけど……」

「あぁ、悪い。実はさっき知香が結里ちゃんを大学で見かけたって言うんだ」

「えっ? それは確かなのか?」

「うん。学生課で書類か何かを受け取って帰って行ったらしい。追いかけたけど見失ったって言うんだ。俺と知香で心当たりを探すから、お前は試験、頑張れ。じゃあな」
携帯は切れた。

 結里が大学に? 一年も行方が知れなかったのに……。

 きょうの一次試験を受けなければ、話にもならない。
 留年して来年、受け直す? いや、そんな事は出来る筈がない。


 とにかく試験会場に向かった。数学教師になる。そう決めて今の大学に入った。

 会場に入って席に着いた。このまま試験を受けるんだ。頭では分かっていた。

 でも理屈じゃなかった。次の瞬間、会場を飛び出していた。


 結里、どこに居る? どこなんだ?

 大学の近くの、よく二人で行った喫茶店。買い物に行った商店街。CDショップ、大型書店、レンタルショップ、ラーメン屋、カレーハウス……。

 一緒に散歩した公園、図書館。


 夕日が綺麗だった河原。

 結里と一緒に見た夕焼け……。

 今でもあんなに綺麗なのに……。
 どうして僕だけ一人なんだ……。
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