僕と彼女の時間
結局、結里を見つける事は出来なかった。
夕暮れの教室で
「旬、元気出せ。悪かったな。俺が知らせなければ……」
「お前のせいじゃないよ。気にするな」
「数学の教師、諦めるのか? 来年、受け直すっていう手もありだろう?」
「ありがとう。考えてみるよ。それに一次で落ちてたかもしれなかったからな……」
「そんな事ないよ。お前なら大丈夫だよ。知香も気にしてた」
「あぁ、知香ちゃんに、ありがとうって伝えてくれ」
「分かった。じゃあな」
ケンイチは、肩をポンと叩いて教室を出て行った。
数日後。ゼミの若子内教授が
「教員採用試験、すっぽかしたんだって?」
と笑いながら話しかけてくれた。
「どうしても、行かなければならない所があって……」
「そうか。まあそういう事もあるさ。長い人生のうちにはな。ところで速水君、大学に残る気はないか? 大学院に推薦しておくから、僕の助手をしながら。数学は大学でだって教えられる。考えておいてくれ。返事は急がない」