俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「覚悟が決まったら教えてください」

「如月、帰るのか? それなら俺も戻る」

間延びした声で藤堂副社長が同調する。

その声に焦って、急いで後ずさる。


早くここから立ち去らなくては。


震える足を無理やり動かし、踵を返す。

こんなところで見つかるわけにはいかない。


後ろを振り返りもせず一目散にエレベーターホールを目指す。

秘書課の前をうつむいて足早に通り過ぎる。


『俺の妻はお前だけだ。この指輪に誓う』

『好きだ』


いつかの彼の台詞が頭の中をグルグル回る。

すべてが嘘だとは思いたくない、思えない。


結果として彼の如月さんへの想いが私に向けるものより強かった、ただそれだけだ。

あの人を怒ったり、責める資格なんてない。


夫を好きにならない、そう決めていたのに。

きちんと一年後に別れると誓っていたのに。

恋をしてしまったのは、私だ。


如月さんはどれほどつらかっただろう。

本来なら自分がいるべき場所に、いくら期間限定とはいえ“妻”の立場で別の女性がいるなんて。


私なら耐えられない。

如月さんは私の副社長への気持ちに気づいているかもしれない。

だとしたら今、私がすべき行動はひとつしかない。


やってきたエレベーターに乗り込み、“閉”ボタンを連打し、壁に凭れかかる。

エレベーター内に同乗者がいないのが救いだった。


頭の中は思考能力を手放したかのように空っぽで、これから先自分がどうやって毎日を過ごせばいいのかわからない。

心と身体がまるで別物のようだった。
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