もういいかい?
おじさんが焼くお店を選び、暖簾をくぐった。

大きな鉄板にワクワクしているのが、隣に並んでいても分かる。

お好みソースの独特の匂いが充満している中

小麦粉と出汁が入った生地を、お玉で掬って丸く薄く伸ばしている。

「わぁ、クレープみたい。」

「お嬢さんは、広島人じゃないん?」

「はい、彼は広島の人ですけど私は違います。
スゴいですね!!ここにかけたのは、何ですか?」

「これは、魚の粉よぅ。
カキじゃあ、チーズじゃあゆうて色んなのぅトッピングするけど
王道のが一番美味しいのぅ。
この魚の粉の風味がええんじゃ。」

「だったら、おすすめを頂きます。
航もそれでいい?」

「うん、そうする。」

積極的に相手と関われる彼女は

カウンター越しに、焼いてもらいながら会話を楽しんでいる。

「ホントに広島弁って、『じゃ』って使うんですね。
彼が使わないから新鮮です。」

「そりゃあ、こんだけ可愛ええお姉ちゃんと一緒におったら
格好つけとぅなるじゃろう。
ねぇ、お兄ちゃん。」

別に格好をつけたつもりはないけど

高校生の時から広島を離れていたから、そんなに出てこない。

おじさんと二人で楽しそうに会話している間に

卵に包まれて、青のりとソースがかけられたお好み焼きが

二人の前に押し出された。

コテと箸とお皿を渡し

「鉄板の上のお好み焼きを、コテで切って直接食べるのが
一番美味しい食べ方だけど
食べにくかったら、お皿に取って箸で食べたらいいよ。」と

食べ方を教える。

彼女の喜ぶ『一番美味しい』と

『食べにくかったら』『箸でもいいいよ。』という

キーワードを織り混ぜたら

「コテで、このまま食べる!!」と

負けず嫌いに火がついた。
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