夏の魔法
「お前か!これ、忘れ物だ」

少年が、英太に本を渡す。英太が図書室で借りた本だ。

「俺、山吹 琥白(やまぶき こはく)だ。よろしくな」

「山吹さん…?」

僕と英太は、同時に呟いていた。

「あ、琥白と呼んでくれよ」

「琥白…何で、僕の忘れ物を?」

「…たまたま通りかかった教室の上に、この本が置いてあったんだ」

「でも、良く英太の物だって分かったね…」と僕が言うと、琥白は笑った。

「英太と同じクラスの奴に聞いたんだよ。『ここの席は誰だ?』ってな。そしたら、『英太だよ』って教えてくれたんだ」

僕は1つ疑問に思ったことを口にしようとしたが、それよりも早く、同じことを英太が言った。

「良く、僕達の居る場所が分かったね…?」

「お前らは、知らねぇと思うが…俺、登校中にお前らを見かけるんだ。だから、俺の通学路を通っていたら会えるのでは…と思ってな」

英太は「…ありがとう」と微笑んだ。僕は、自分のことであるかのように嬉しくなり、思わず微笑んだ。

「じゃあな!」

琥白はそう言って、僕達を追い越して消えていく。
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