彼の溺愛はわかりづらい。
「じゃ、そろそろ行ってきまーす」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」
「へいへーい」
俺を見送る父さんと母さんの声に、適当に相槌を打ちながら、俺は玄関を出た。
クーラーの効いていた室内に比べて、真夏の日差しは、そろそろ車のボンネットの上で目玉焼き焼けるんじゃないか…って思うくらいの暑さの原因そのものである。
「あっちぃ…」
数メートル歩いただけなのに、汗がダラダラ流れてきて、体が溶けているような気分にもなってくる。
あーあ、早く渋川に会いてぇな。
なんて思っていると、無意識のうちに小走りになっていることに気がついたから、普通の速度で歩き始めた。この暑い中、さらに体温を上げるのは嫌だからだ。
アイツも今頃、こんな風に暑い通学路を歩いていたりすんのかな。
教室はクーラーついてんのかな~、なんて、吞気なことでも考えていそうだ。
俺ももちろん、クーラーのことも考えてるけど、そんなことより何倍も、何十倍も頭の中を占めてるのは、お前だよ。
…そんなこと、アイツは露ほども知らないんだろうな。