秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

それは、自分の想い人に急に抱きついて泣き出した令嬢に対する嫉妬という安易な感情ではない。

もっと違う何か……ただならぬ危険信号が、私の体内を駆け巡り始めていた。

彼女から感じ取る何か、禍々しいものが……。



……そして、その正体が明らかになる。



「アル、聞いてっ……。エリシオン達ったら酷いのよ?皆、あんなに私に愛してると言ってくれたのに手のひら返したように、私を避けてっ……イプサムも、ステフも、グランも!」

「え?!」

「だからもう私、アルしかいなくて!どうして私を置いて領地に帰ってしまったの?私、寂しかった、寂しかったわ!」

そして「あぁっ……」と、令嬢は泣き出した。

王家と近しい立ち位置にある公子様を『アル』と愛称で呼んだ上、急に抱きついて泣き出す。令嬢としての信じられない振る舞いに、周囲はザワザワと驚きを隠せてない。

令嬢の奇行に混乱が生じ始めたその最中……私は、見てしまったのだ。



(……?!)



ローズマリー令嬢の足元から、フワッと風が吹き出して立ち昇る。

赤く、色がついた風が。

赤い風という実際には有り得ないものの出現に、反射的にビクッと体を揺らしてしまう。

これは、一体……?!

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