イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

今までずっと緊張して、口の奥で私のそれは縮こまっていたままだったから、舌同士が触れあったのは初めてだった。

この一瞬で、郁人が角度を変えてぐっと噛みつくようにキスが深くなる。
口の中で唾液をかき混ぜるような音がした。ほんの数秒舌同士が絡まって唇が離れる。

私は呆然としてしまって……いや、ぽおっとのぼせてしまっていたのかもしれない。


「おやすみ」とひと言告げられ、頬を撫でられる。それで我に返った。

「お、おやすみなさい……っ」


慌てて部屋に逃げ帰った。

キスが、こんなにもドキドキするものだなんて知らなかった。
頭がぼんやりしてふわふわして、働かなくなるということも初めて知った。


……なんだか、夢の中にいるみたい。


まさに夢見心地でベッドに潜り込む。そのまますんなりと寝られるかと思ったら、逆にほとんど眠れなかったのだった。


< 110 / 269 >

この作品をシェア

pagetop