イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
どうかしたのか、と私も再び郁人の方へ目を向けて、思いもよらないものを見た。
彼は、ひとりではなかった。
「あれ、誰です? 社内の女性社員では見たことないです」
「え……わからない、けど」
社内の女性社員をそんなに細かく覚えてはいない。
郁人が立ち止まって、後ろを振り向いていた。
その女性は上品なワンピース姿で、どこかの店のショーウィンドゥに気を取られていたようだ。緩くウェーブのかかったミディアムロングの髪を靡かせて小走りに近寄り彼の腕を掴む。
嬉しそうな横顔が、彼の身体の向こう側に寄り添ったのでもう見えない。
彼も、彼女の方を見ているから、どんな表情をしているのか、まったくわからなかった。
「あ、あー、親戚とかお姉さんとか妹とか?」
無反応で固まっている私に、河内さんがそう取り繕って励まそうとしているのがわかる。