イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

「待ち合わせしてんですか?」
「ううん、今日は仕事が遅くなるって」
「じゃあ、終わったとことか?」
「さあ……」


今日は河内さんと食事することは伝えてある。
会社はすぐ近くだ。外回りの仕事が終わって自宅に直帰かと思ったけれど、一旦オフィスに戻ったのかもしれない。


「ちょっと、電話してみます」


スマホをバッグから出してみたが、彼からの着信は残っていない。


「こっから手を振ってみたらいいじゃないですか。佐々木さーん!」
「ちょっ、そんな大きな声で」
「こんな騒がしい通りですよ、車も走ってるし。大きな声じゃないと聞こえないじゃないですか」
「だから電話で……」


もう一度大声を出しそうな河内さんの二の腕を掴んで止めようとしていると、郁人の方をまっすぐ見ていた彼女の横顔から表情が消えた。

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