イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活


はっ、と顔を上げ慌てて手の甲で目を擦る。


「歩実?」


ぼんやりしたままで、この部屋のドアも開けっ放しだった。
こん、と開いたままのドアを郁人が軽くノックして顔を覗かせた。


「あ、お、おかえりなさい」
「ただいま。どうした? 玄関も鍵がかかってなかった」
「え、嘘。ごめん」


どうにか笑ってそう答える。
ほっとした。彼も、あの人とはすぐに別れて帰ってきたのだろう。


郁人の視線が、私の手元のクリアファイルに落ちたことに気がついた。
慌ててそれをチェストの引き出しにしまいこむ。


「あ。コーヒー淹れようか。私も今帰ったところなの」
「そうか」
「うん、河内さんが洋食屋さんに連れてってくれて……また女子力高そうなお店でね」


部屋の入口近くに立つ郁人の前を通り過ぎようとした。
けれど、それよりも先に手首を掴まれる。

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