イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

……あ。


顔を傾げて、彼の唇が近づいてくる。
キスをされるとわかっていたけれど、いつものような幸せな気持ちにはなれなくて、だけど避けることもできなかった。


ふに、と柔らかな唇同士が触れあう。
そうやってソフトなキスから、様子を窺うようにして少しずつ深くなる、そんな優しいキスの仕方をする人なのに。
戸籍上の妻ではない、他の女性と会っていたりする。

彼の行動と印象が噛み合わなくて、頭の中が混乱した。


「……歩実」


唇を擽られながら優しく呼ばれて、頷いていいのかわからなくなる。
私と彼はキスをしていい関係なのだろうか。


契約書には、「触れ合わない」という項目もある。
だけどそれは私が出した条件で、にもかかわらずキスを許してきたのは私なのだ。
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