イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「……な、んでもない、けど」
――くじけてしまった。
こんな風に、純粋に心配する目を向けられたままで言葉をひねり出すのは難易度が高すぎた。
どっどっどっと忙しなく鼓動を打つ心臓のせいで、息も上がる。極限状態だ。なのに、郁人はまだ疑いの目を向けてくる。
「……歩実?」
「なんでもない、ほんとに。あ、最近、遅いから、ちょっと心配だっただけ。身体とか」
嘘ではない言い訳がうまいこと見つかって、するりと口から出た。
それでようやく、郁人も納得したらしい。
そうか、と頷いて、覗き込んでいた体勢から上半身を起こす。
それから不意打ちのように、軽く口元を緩ませた。
「……心配かけた。大丈夫だ」
ありがとう、と目が言ってくれているような気がする、そんな優しい眼差しだった。
不思議と私も、ほうっと身体の余計な力が抜ける。