イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
夫婦なのだから相手の身内くらい知ってるのが普通だが、私たちは普通に当てはまらない。しかしそれを周囲に知られるわけにもいかず、来客ブースへと向かうしかなかった。
その途中で郁人に連絡してみたが、呼び出し音が鳴っても通話にはならない。
……私が対応するしかないよね。
どういう身内なのかわからないが、ひとまず同僚のフリで彼は今外出中だと説明するしかない。受付でその客人のいる来客ブースを聞き、そこで私はぴたりと足を止めた。
そこには、あの日郁人の隣に寄り添っていたあの女性がぴんと背筋を伸ばし隙のない様子で座っていたのだ。
「あ、あの……」
すぐに目が合ってしまい、頭の整理をする暇もない。とたん、考えていたセリフが全部飛んだ。
「突然申し訳ありません、本人に中々連絡が取れないものですから……あの、佐々木郁人さんはいないのでしょうか」
とてもきれいなソプラノの声だった。