イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

干渉しないというルールを破り、一歩踏み込んでみよう、今度こそ。

そう改めて決意したというのに……事態は待ってはくれないものだ。
パソコンの画面端にある時計表示に目をやると、定時少し前くらいだった。
内線が鳴って、河内さんが受話器を取る。
それからすぐに、私に言った。

「歩実さん。佐々木さんを訪ねてお客様が受付に来られてるみたいですよ」
「そうなの? 多分、今日は戻らないんじゃないかな」

壁のホワイトボードに書かれた郁人の予定は、訪問先の会社名が幾つか連なった後に直帰となっている。会社に訪ねてくるなら取引先の人かと思って、そう返事をしたのだが。

「お身内の人みたいです。どうしてもお会いしたいらしくて、歩実さん行ってもらっていいですか?」
「えっ、誰?」

思わず声が大きくなった。
身内、とは親戚とか家族という意味だろうか。それはまずい……私は郁人の身内のことなど何一つ知らない。というか、紹介するような家族はいないと郁人は言っていた。本当にまったくゼロの天涯孤独なのかどうか、そこまで突っこんで聞いたことはなかったけれど、

「さあ……身内としか言わないそうで。でも身内なら歩実さん見たらわかりますよね? お願いします」
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