イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

『男女としての接触はしない』の一文を差す指先に、私の言う契約違反がなんなのか、言わなくても彼はわかっているのだと気が付いた。慌てて、首を左右に振った。

「嫌だったわけじゃないの」
「この間もこれを見て何か悩んでいただろう。このことが言いたかったんじゃないのか」
「そう、だけど。だから……契約内容の再考を」

訝し気に眉を顰める彼は、私の言葉の続きを待っている。
顔が火照って熱くなるのを無視して、どうにか声を絞り出した。

「い、嫌じゃない、から。その部分の修正を、お願いしたくて……私が嫌がらないペースで、だけど」

そう言うと、彼は目を見開く。

「……無理は」
「してない。……郁人が嫌じゃなければだけど」
「……嫌なら最初から触れてない」

膝の上に置いた私の手に、郁人の大きな手が重なった。あたたかくて、安心するのにどきどきする。この手を失くさないために、精一杯のことをしたい。
私は次の提案を畳みかけた。
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