イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

……下手したら嫌われる。

そう思ったけれど、私はどうしても、郁人ときちんと話をする権利が欲しかった。

郁人の家族や親戚のことは、知られないように調べることだってできる。
だけど、そんなやり方をして知りたいわけじゃない。
仮面夫婦でない、互いに壁を作った関係でない、ふたりになりたい。

今までの私なら、婚約者だなんて人が出てきた時点できっと諦めてしまったと思う。いや、ふたりが一緒に歩いているところを見たその時から、距離を置いてしまっていたかもしれない。

でも、今の私は、それじゃ嫌だった。
彼の事情に手を伸ばしていいという許可が、彼から欲しい。
……私のことも、知りたいと思って欲しい。

干渉しないでいい、と言う言葉がとても寂しく感じた。
だから。

どう切り出そう、と膝に置いた手をぎゅっと握り合わせた時だ。

「……契約違反については、改める。嫌な思いをさせたなら悪かった」

郁人が、神妙な声でそう告げる。
彼を見ると、書面に目を落としたままだ。その指は、契約事項のある一点の上で留まっていた。
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