イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
 キーボードを叩きながら、ちらりと壁のホワイトボードに視線を向ける。
『佐々木郁人、午後よりT社訪問、夕方よりC社』
 帰社予定は書かれていない。もうすぐ定時、多分今日も遅いのだろう。午前は他の営業のフォローで忙しそうにしていたし、あの人本当にいつか死ぬんじゃないかと思う。


 たんっ、と強めにエンターキーを押して、今日の作業は終えることにした。残り時間を、書類整理などに費やし、定時きっかりに仕事を終える。


 スーパーで食材を買って、真直ぐマンションに帰ると当然部屋は真っ暗だ。食事を一人分作って、食べて後片付け。家事は各自で、ということになっているけれど、お風呂は私が掃除する流れになっている。私が先に帰っているのだし、それで別にいい。


お風呂を済ませた後は、リビングでコーヒーを飲みながらテレビを流しながら本を読む。電車に揺られる時間が短くなった分、通勤で本を読むのが少なくなった。その分、早く帰れているから、落ち着いて読めるのだけど。


集中していると、かちゃりとリビングの扉が開いた。


「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」


 時計を見れば、二十一時を過ぎたところだった。

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