イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

「おかず、ちょっと残って冷蔵庫に入ってるよ」
「いや、食ったからいい」


 食事も各自。たまに残り物を自分で温めて食べてたりする。どうせ作るなら一人分も二人分も同じだし作ってもいいかと思っていたが、食べるか食べないかわからないから無理にはしないことにした。
 僅かな会話を交わしてすぐに本に視線を戻す。しばらくしたら、コーヒーの香りが少し強くなった。彼がサーバーに残っていたコーヒーをカップに入れて、私の隣のソファに座っていた。


 彼がテレビを見て、適当にチャンネルを変える。私はぱらりとページを捲る。
 この、ただ一緒にいるだけで各々自分のことをしている、静かな空間が絶妙に居心地が良かった。最初は自分の部屋で読んでいたりしたけれど、まるきり一人でいるよりもちょっとだけ存在を感じられる距離がちょうどいい。
 不思議で、初めての感覚だった。


 彼は、私に一緒にいることも離れることも強要しない。家事も、平日は彼には不可能だが、土日はリビングを掃除してくれていたりする。何か食べた後はちゃんと後片付けもしていてくれるし、本当に家事において私が患うことは一切なかった。

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