イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

声の主の男性営業員が、私の向かいのデスクに立っていてその目の前で縮み上がっているのは河内ゆかりだった。


「す、すみませんっ!後回しにしてしまってて」
「後回しにって、頼んだのは一週間も前からだろうが!明日の朝一で必要なんだぞ!?」
「ご、ごめんなさ……」


真っ青になって震えている彼女を見兼ねて、思わず間に入った。


「急ぎの仕事ですか?」
「急ぎじゃねえよ先週から頼んであったって!」
「必要なのは明日ってことですよね」


頭を切り替えなければ話は進まない。河内さんも青ざめているが、彼の方もかなり焦っている様子だった。


「河内さん、資料こっち回して」
「え、あ、でも」
「早く」


おずおずと差し出されたファイルを受け取ると、営業社員も頭を切り替え私のデスクの方へ回り込んできた。

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