イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
仕事でミスをすることなど、いくらでもある。何かに気を取られる時期だって誰でもあるのだから、失敗した時に悪びれず責任を感じることのできる彼女は、ちゃんとこの先気を付けて仕事を熟せるだろう。
さっきの青ざめた顔は決して演技ではなかったと思うから。

そう言った類のことを、彼女に声をかけて伝えてあげればいいのだとわかってはいる。だけど、今はその目の前の構図に私自身が動揺してしまって近づくことができなかった。ふたりに気づかれる前に、逃げるようにオフィスに入り自分のデスクにつく。


……私がきつい言い方をしてしまったから、郁人が慰めてくれているだけ。


そう自分に言い聞かせても、すぐに嫌な感情が込み上げてくる。


何も、そんなところで隠れるようにふたりで話さなくてもいいのに。
それに、いつもなら誰かが落ち込んでても慰めにいったりなんかしない人だ。仕事に関することはとにかくドライでシビアな人だから。

……なのに、河内さんに限ってどうして?


もや、とお腹が痛くなる。考えれば考えるほど胸の中が苦しくて、ぎゅっと一度拳を握りしめて気合を入れると余計なことは頭の中から追い出した。

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