イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
振り向けば、河内さんが私の後を追って来ていて、エレベーターまでの通路を横に並ぶ。
会社で、郁人以外に下の名前で呼ばれたのは、そういえば今が初めてかもしれない。
「あの。夕食、どこか食べに行きませんか」
「え。……私? 私と?」
「はい。あ、奢ります。お話したいこともあって……」
何の話だろう。
聞きたいような、聞きたくないような、逃げ出したいような。
今までの私なら、何か適当な理由を付けて断っていたかもしれない。仕事の話なら勤務時間内にするものだと思うし、プライベートなら気後れするものに無理に付き合うこともない。
だけど、今の私は気になって仕方がない。
あの時郁人と彼女は、どんな話をしてたのだろう。それを知ることができるのだろうか。
「わかりました。じゃあ、少しだけなら」
怖いけど気になる。
私は緊張気味に頷いた。