Stockholm Syndrome【狂愛】
「……なんだって?」
僕はベッドのふちから立ち上がり、赤いサテンに視界を閉ざされた沙奈を見下ろした。
沙奈は臆することなく、
「あなたは、どうして私を監禁したの?」
と、無感情な声で再び述べた。
……どうしてそんなことを訊くのだろう。
そんなの、決まりきっている。
「……愛しているから」
僕は沙奈から離れ、ベッドのそばの壁に背を預けて腕を組んだ。
どうして監禁したか、なんてわかりきっているものだと思っていたのに。
僕は毎日、飽くことなく君に『愛している』と伝えているはずなのに。
「……きっと、それだけじゃないんでしょう?」
身体の前で拘束された手の指を落ち着きなく絡ませ、けれど身動きはせず、沙奈は言葉をなう。
「それだけだよ。他に理由なんてない」
「なら」
僕は沙奈に視線を向けるけれど、彼女の表情をうかがい知ることはできなかった。
目元を隠す赤いサテンが邪魔をして。
沙奈は、言葉を、放った。
「……チアキって、だれ?」
喉が詰まったような息苦しさを感じた。
沙奈は静かな声色で僕に尋ねた。
彼女の長い髪がどこからか入ってきた隙間風に揺られ、波打つように動く。
チアキ。
……チアキ。
もう二度と会うことはないのに、どうして君は、僕の前から消えてくれない?