Stockholm Syndrome【狂愛】
登校途中も帰り道も一緒で、ときどき疎ましがられることもあったけどチアキは優しい人だった。
……優しい人だと、思ってたんだ。
思い込んでいたかった。
水族館や遊園地でデートをして、彼女の友達のカップルと一緒に海に行ったり、映画を見たりした。
僕の家にチアキが上がったり、その逆で、チアキの家に僕が上がってテスト勉強をしたりもした。
『好きだよ』って、毎日毎日、チアキに伝えていた。
けれどある日、僕の友達——この前家に訪れたあいつから、こんな噂を聞いたんだ。
『お前の彼女、浮気してるんじゃないか』と。
信じたかって?
……まさか。
ショッピングモールで知らない男と連れ立って歩くところを見たって言っていたけど、そう簡単には信じられなくて否定してた。
あんなにも愛しいチアキが、別の男と付き合ってるだなんて……あり得ない。
僕は自分に言い聞かせていた。
でも、見てしまったんだ。
チアキが僕に、今日は会えないって言った日に、街の中を別の男と歩いてるところを。
髪を金色に染めた大学生くらいの男で、チアキの手には真新しいブランド物のバッグが下げられていて。
……嘘だと思った。
あれは友達と歩いてただけだと、何度も自分に言い聞かせようとした。
けれど一度もたげた疑惑は、僕の意思に関係なくどんどん膨らんでいって。
……ふと、思い出したんだ。
チアキが、あの男と歩いていた時の笑顔を。
――僕の側にいるときと一寸たりとも変わらない、あの弾けるような表情を。
……あの笑顔は、僕だけに
向けられていたものじゃなかった。