俺だけ見てろよ~御曹司といきなり新婚生活!?~

大きな売り上げがポンと上がるわけではない小さな小売店回りをしたがらない営業もいるけれど、コツコツとした積み重ねが大切だと信じている。


「こんにちは。啓陽堂です」
 

都会のど真ん中にある生活雑貨店の本部のあとは、会社から車で四十分ほど山の方に走った、昔からの住宅街にある小さな文具店へ向かう。

地域密着型で、近くの小中学校の注文を受けることで成り立っているようなお店だ。

旦那さんが外回りを担当していて、店は奥さまが切り盛りしている。


「高遠さん、いらっしゃい」


〝啓陽堂さん〟から〝高遠さん〟に変わるまで二年かかった。
それでも今はとても良好な関係を築けていると感じている。


「今日は過ごしやすいお天気ですね」
 

もうコートも必要ない。
それに、百メートルほど離れた駐車場からここまでの道端にはタンポポがびっしりと咲いていて、春を感じた。


「今日は二十三度ですって。今、テレビでそう言ってたわよ」
「すぐに暑くなりそうですね」
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