恋を忘れたバレンタイン
 その日は、ホワイトデー。
 俺には、全く無関係な日となっていた。

 なんとなくいつもより、騒がしいい朝。
 いつもあまり目立たない佐々木さんに、女子社員達が声を上げている。毎年ホワイトデーのお返しに盛り上がっている事は知っている。

 佐々木さんは、数か月前まで俺の島に居た。それ以前にも営業で一緒だった事もある。いつでも穏やかに人と接する姿に、俺は好印象をもっていた。その上、仕事は確実で大切なプレゼンの前には頭を下げ、チェックしてもらう事もあった。

 自分では気づかない、小さなアドバイスに何度も救われた。だが、あまり積極的とは言えない性格に、出世からは外れてしまったのだろう。

 でも俺は、佐々木さんが彼女から慕われている事を知った。彼女の島に異動になった佐々木さんに、ここぞと言いう時の大切な資料を任せている姿を見た。
 俺は正直嬉しかった。
 彼女の人を見る目が、確かな物であると思ったから……
 それと同時に、俺と同じ思いを持っている事に……



「浦木さん、おめでとうございます。海外事業部への資格を取得なさったそうですね……」

 休憩時間を隠れて一人で過ごしている俺に、声を掛けて来たのは佐々木さんだった。


「ありがとうございます。よくご存知で……」

 俺は、佐々木さんが知っている事に驚いた。


「ええ、部長が話していたもので…… 凄いと感心されていましたよ」

 俺の横に座った佐々木さんは、相変わらず穏やかな口調で言った。


「それほどの事では無いんです……」

 俺は、彼女の気持を引くために資格取得した事を、この時初めて恥ずかしいと思った。


「そんな事は無いと思いますよ…… 少し、込み入ったお話しをしてもいいですか?」

 佐々木さんは伺うように俺を見た。
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