恋を忘れたバレンタイン
背もたれに体を預け、ミニスカートからの長い脚を組み資料を手にした。

 影で女の子達が、足の長さを見せびらかすだの、かっこつけて怖いキャリアババアだと言っているのは知ってる。
 しかし足を組むのは癖だし、こうしていると、資料の内容が集中して入ってくる。

 周りの言う事など気にしていたら、やるべき仕事が身に入らない。

 やはり、資料の一部に気になる事案がある。このままだと、後で上からの指摘を受けかねない。もう一度、詳細の確認が必要だ。

 私は、長い黒い髪をかきあげ、デスクの上に転がっていたペンへ手を伸ばした。


 うん?


 なぜ私は、顔を上げたのだろう?


 デスクに斜めに向かって座っていた私の目に、グレーのスーツが立ち上がる姿が映った。

 たまたま立ち上がっただけの男と一瞬目が合った。


 ほんの数秒だが、ぶつかった視線が痛い。

 なんだろう? 


 何か恨みでも買った相手だっただろうか?
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