恋を忘れたバレンタイン
彼は、私より三つ年下の後輩で、浦木信也。
 隣りの企画部のエースと言っても過言ではない。
 愛想のいいイケメンだが、仕事になると表情が変わって厳しい目つきになる。会議の中で数回そんな姿を見たくらいで、隣の島に居ながらもこれと言って言葉を交わした事もない。

 ただ、彼の周りを、キャーキャーと女の子達が、昼休みになると囲っていて目立つから知っているだけだ。
 確かに、目鼻立ちの整った顔に背も高い、その上仕事も出来るとなれば、女の子達の意識が上がるのも仕方ない。

 私だって、数年前までは、仕事の出来るイケメン同僚や先輩に、多少はアピールして付き合った事だってある。

 でも、三十過ぎて三つも下の後輩となれば、自分が問題外の存在である事は言われなくても分かっている。せいぜい目の保養に観察するくらいでいい。


 明日の、バレンタインも彼を狙って女子社員達が殺到するだろう…… 

 それを、上手い事笑顔で交わす彼の姿が何故か思い浮かんだ。


 軽く頭を横に振って、邪念を追い払うと、資料にマーキングと書き込みを始めた。

 ある程度まとまると、オフィスの時計に目をやる。そろそろ時間だ。デスクの上を片づけると、コートへと手を伸ばす。

 もう、ほとんど人の居なくなったオフィスをもう一度見回す。

 
彼も、すでに帰ったようで、彼のデスクの上はパソコンが閉じられ、綺麗に片付けられていた。ただ、目に入っただけで、別にきになるわけでもない。
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