恋を忘れたバレンタイン
 マンションの鍵を、恐る恐る開ける。

 ドアの隙間から見えた、彼女のハイヒールに俺はその場に崩れるくらい安堵した。

 すぐに、寝室のドアを開ける。目覚めたばかりの彼女と目が合った。

 もうすでに夕方になっている事に、気付いていない彼女が可愛く思えってしまった。

 でも、それだけ疲れの溜っていたと思うと、胸が締め付けられた。額に手を当てれば、かなり熱は下がっているようだ。
 当たり前のように彼女に触れるが、決して冷静ではない。触れるたびに心臓は大きく動揺する。


 とにかく彼女が帰ると言い出す前に先手を打とう。

 まだ、彼女に帰って欲しくないから……


「適当に買ってきました。お風呂入れるので入って下さい」


 俺は、買ってきた彼女の着替えを袋のまま差し出した。


 渡してから急に恥ずかしくなり、袋を開けらる前にさっと寝室を出た。
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